一周回ってこの秋は、ローテクなマウンテンパーカが着たい。

一周回ってこの秋は、ローテクなマウンテンパーカが着たい。

一周回ってこの秋は、ローテクなマウンテンパーカが着たい。

右上は44年前にアメリカから個人輸入したシエラデザインズのマウンテンパーカ。下のタンのマウンテンパーカも入手は同じころ、ウールリッチ製で原宿のサーフショップで購入した。左のオレンジは20年以上前のシエラデザインズ。『ディア・ハンター』を見て「欲しい! 着たい!」と購入したが、まだ着たことはない。

10月も半ばを過ぎると、さすがシャツ一枚では心許なくなる。いつもこの時期にはシャツの上から羽織るようなアウターを着ることが多いが、今年、個人的に着たいのがマウンテンパーカだ。


マウンテンパーカはいまや一般名詞のように扱われることも多く、どんなデザインのものでも、山で着られるようなものならば、「マウンテンパーカ」とジャンル分けされてしまうが、オリジナルがある。


アメリカで1965年に創業されたシエラデザインズのもので、同ブランドのマウンテンパーカには「オリジナル60/40マウンテンパーカ®︎」という商品名のものがあり、タグにも「ORIGINAL 60/40 PARKA」と書かれている。


『MEN'S CLUB BOOKS Vol.10 アウトドア・ウエア』(婦人画報社)でイラストレーターの小林泰彦氏は「ヨーロッパ系の防風衣で、かつて日本でもウィンド・ヤッケという名で親しまれてきたものを、米国人が米国的につくり換えたのがこのマウンテン・パーカである。だからマウンテン・パーカの機能は、第一に防風であり、それに付随して身体の保護、身の回りの小物なの収納などの役目を果たす。


シエラデザインズがこのパーカを発明したのは60年代だが、日本で紹介されたのは小林泰彦氏が「ヘビーデューティー」と命名したアウトドアスタイルを提案した70年代も末の頃で、本物のMade in U.S.A.製品とそれに影響を受けたスタイルが日本で大流行した頃だと記憶している。

一周回ってこの秋は、ローテクなマウンテンパーカが着たい。

シエラデザインズのマウンテンパーカに付いた製品タグ。「ORIGINAL 60/40 PARKA」と入っている。いまだにアメリカでつくられているらしい。

一周回ってこの秋は、ローテクなマウンテンパーカが着たい。

「チンウォーマー」と名付けられたディテール。これはフードをかぶったときに、口にファスナーがあたらないようにとのデザイン。ファスナーもプラスチック製だ。

シエラデザインズがデザインしたマウンテンパーカでいちばんの特徴は、「60/40」、日本では「ロクヨン」または「ロクヨンクロス」と呼ばれた素材にある。同ブランドのサイトの説明をそのまま書くと「横糸に綿を約60%、縦糸にナイロンを40%の比率で織り上げた生地」で、「雨に濡れればコットンが膨張し、ナイロンを圧縮して雨の進入を防ぎ、乾けばコットンのナチュラルな通気性が衣類内を快適な環境に整える」ともある。


当時は、こんな画期的な素材はないと私は感動して、なんとしても入手したいとアメリカからこのマウンテンパーカを個人輸入した。


マウンテンパーカにはさらに特徴的なディテールがある。防風のために設計されているので、フードが付いているが、そこに「ドローコード」と呼ばれる調節用のコードが付き、シエラデザインズの場合はコードには革のパッチが付き、手袋をしたままでも締められるようになっているのだ。フロントにポケットは4つ。どれもベルクロ付き。ベルクロが珍しい時代に、本当に革新的に見えた。ちなみに袖の調節もベルクロで行う。そして本体下のマチ付きのポケットの裏側にはハンドウォーマー付き。背中にもマップなどを入れる大型のポケットがあり、前後5つのポケットで、小さなザック並みの収納力があるというのがこのパーカの売りだった。フロントの開け閉めはファスナーとボタンのダブルで、ファスナーはYKKの#10というすごく頑丈なタイプが使われ、プルタブにもナイロン素材のドローコードが付いている。これも手袋をしたまま操作できるようにと考えられたものだ。


こうしたオリジナルの機能はシエラデザインズが考え、製品化したものだろうが、当時はいろいろなアウトドアブランドから同じようなパーカがリリースされていてた。素材も「ロクヨン」以外のものも使われ、デザインを少し買えたものも販売されていた。

一周回ってこの秋は、ローテクなマウンテンパーカが着たい。

一昨年、購入したナイロン素材のマウンテンパーカ。ザ・ノース・フェイスのパープルレーベルの製品で、サイズはMを購入したが、Aラインで大きめ。

10代のころ、秋冬には毎日のように着ていたマウンテンパーカであったが、アウトドアスタイルの退潮とともに私自身のファッションヘの興味も移り変わり、タンスの奥にずっと眠っていて、豪雨のとき以外はなかなか着ることもなくなってしまった。


その後は「ゴアテックス」などの機能に優れた素材も発明されているので、マウンテンパーカなど、もう着ることもないだろうなとここ10数年は思っていたが、昨年某セレクトショップで出会ったのが、ザ・ノース・フェイスのマウンテンパーカ。ザ・ノース・フェイスはシエラデザインズと同じく、60年代にアメリカ西海岸で創業されたアウトドアブランドだったが、同社のマウンテンパーカは着る機会がこれまでなかった。


そのとき発見したパーカは、いわゆる「ロクヨン」素材ではなく、表地はナイロン100%で、たぶんシワ加工をかけたもの。一枚仕立てで、オリジナルに比べるとかなり軽量な設計。羽織るように気軽に着られ、着る期間も長い。さらにオリジナルとの違いは着丈。これが膝下くらいまでと長く、シルエットもAラインに近い。これはいい。一昨年、バブアーのロングタイプでAラインの別注品を入手してずいぶんと活躍したが、そのバブアーと同じ感覚で着られるとすぐに購入を決断した。

一周回ってこの秋は、ローテクなマウンテンパーカが着たい。

今年の夏前に購入したマウンテンパーカもザ・ノース・フェイス パープルレーベル。細かいサイズは計ってはいないが、着用した感じは前に購入したものと似ている。今回はサイズをLに。

一周回ってこの秋は、ローテクなマウンテンパーカが着たい。

昔からザ・ノース・フェイスのマウンテンパーカやダウンジャケットは「65/35」の素材がよく使われていた。写真では黒っぽく見えるが、実際の色はダークネイビー。一生もの。

ナイロン100%の軽量なマウンテンパーカは入手後、ずいぶんと着用したが、コロナ禍での外出禁止が解けた6~7月に立ち寄った近所のショップで同じデザインのマウンテンパーカを見つけた。


着丈もロングタイプでシルエットが今風なところも同じ。もちろん同じザ・ノース・フェイスの製品だったが、今回見付けたのは素材が「65/35」。70年代当時から同ブランドのマウンテンパーカに使われている素材で、こちらはポリエステル65%、コットン35%の割合で繊維を混合させた素材で、我々は「ロクゴウサンゴウ」とか読んでいたが同ブランドのサイトによれば、正式には「65/35ベイヘッドクロス」と呼ばれているいる素材だ。機能は「ロクヨン」とほぼ同じで、撥水性もある。デザインこそ多少の変化はあるが、まわりまわって、70年代に私がファッションに興味を覚えたアイテムであるマウンテンパーカにまた戻ってしまったわけだ。


人はなかなか変われないもの、好きなものはなおさら。この秋はまずこのローテクなマウンテンパーカから着てみようと思っている。